一条通病院もの忘れ外来について
認知症サポート医 鈴木和仁
道北勤医協一条通病院では2016年10月より、認知症サポート医(総合内科医)によるもの忘れ外来を開始しました。毎週月曜・水曜・金曜日の午後に完全予約制で実施しております。2017年3月より道路交通法が改定されたこともあり、予約は少々混み合っておりますが、お困りの方には急ぎで対応しますので、お気軽にご相談いただければと存じます。
2012年厚労省の調査では、65歳以上の高齢者3000万人のうち認知症の有病者は462万人、軽度認知機能障害(MCI)の有病者は400万人と推計されました。さらに団塊の世代がすべて後期高齢者となる2025年には、高齢者総数は3650万人まで増加し、認知症有病者は730万人、MCI有病者は584万人まで増加すると推計されています。つまり、高齢者の1/3は認知症およびその予備軍という時代が、目前に控えていると言えます。
医療機関にかかる高齢者について、医療従事者は目の前の患者さんの背景に認知症が存在しているかもしれないという意識をあまり持たずに診療を行ってきました。現在の認知症診療は、精神神経科・神経内科・脳神経外科などの専門医が多く対応しています。しかし上記のように、高齢者の1/3が認知機能低下を認める時代を迎えるにあたり、専門医だけの対応では全く不十分であることは容易に想像できると思います。日本医師会を中心に、普段さまざまな病気を診療している「かかりつけ医」が認知症対応力を向上させ、認知症の初期対応に当たるための準備が進められています。
そこで、道北勤医協一条通病院では、在籍している5名の認知症サポート医を中心に、認知機能低下に対する対応を開始しました。もの忘れ外来の内容ですが、旭川市が配布している「オレンジガイド」を利用し、事前にこれまでの経過を記入していただきます。受診当日は、認知機能検査(HDS-R・MMSE)、脳MRI検査、血液検査、身体診察を実施し、その日のうちに結果をお知らせします。また、介護・生活支援の相談がある方にはその場で社会福祉士が対応いたします。主治医意見書作成や公安委員会に提出する診断書作成にも対応いたします。
もの忘れ外来を開始してから、1年半が経過しましたが、いくつかの特徴がありますのでご報告します。まず、もの忘れ外来の申し込みですが、御本人からが25%、ご家族からが50%、その他ケアマネ・包括・施設・開業の先生などからの紹介が25%となっています。多くの高齢者の皆さんが、生理的なもの忘れについて「自分は認知症になってしまったのではないか」という不安を感じておられることがよく分かりました。ご自分で申し込みをされた方々の多くは正常もしくはMCIでした。また、認知症の種類については、アルツハイマー型が圧倒的に多いのですが、慢性脳虚血を伴う方、幻視幻覚を伴いレビー小体型の関与が疑われる方、易怒性が強く自分勝手な行動や性的逸脱を伴い前頭側頭型の関与が疑われる方など、特に後期高齢者はいくつかの病型が重なっていると思われる方が目に付きました。
治療につきましては、4種類の抗認知症薬が発売されていますが、残念ながら脳に蓄積し脳細胞を破壊する異常蛋白である、アミロイドβやαシヌクレインを排除できる根本治療薬はまだ実用化されていません。現在の抗認知症薬は、認知症の進行をいくらか遅らせることを主眼としており、ご要望のある方には処方しております。むしろご家族やご本人が一番何に困っているのかを伺って、そちらの対応を優先するように心がけております。
認知症の症状は記憶障害・見当識障害・遂行機能障害などの中核症状と、易怒性・暴力・徘徊・幻覚・妄想などの行動心理症状(BPSD)に分類されますが、残念ながら中核症状の進行は止められません。しかし周りの方々が対応に苦慮するBPSDは介護専門家の上手な対応や薬物療法などにより落ち着かせることが可能です。お一人で悩まずに、お気軽にご相談ください。
住み慣れた自宅や地域で出来るだけ最期まで生活することが出来るようなご援助をして参りたいと考えております。病院への受診が困難なセルフネグレクトや引きこもりの患者さんにつきましても、臨時往診での対応を行っておりますので、ご相談いただければと思います。