本文へ移動

禁煙したい あなたへ

1.タバコはどれくらい体に悪いの?

 タバコをやめたいと思っているあなたに、禁煙のメリットとコツをお伝えします。
 ここでクイズです。高血圧、糖尿病、肥満、コレステロール、タバコのうち、一番身体に悪いのはどれでしょうか?
 答は「タバコ」です。
 
 死亡率の高さが、体に悪いかどうかの目安になります。日本の中高年男性の死亡率は、喫煙で2.0倍、高血圧で1.5倍、糖尿病で1.4倍、肥満で1.2倍、高コレステロールで0.9倍です。喫煙者は、高血圧と糖尿病の両方を患っているようなものです。
 タバコがこれほど死亡率を高めるのは、①死因第一位のがんの3分の1はタバコが原因(男性)、②死因第二位の心筋梗塞は喫煙で2~3倍増える、③死因第三位で毎年12万人以上の命を奪う肺炎の多くは喫煙による慢性閉塞性肺疾患が原因、などの理由によります。日本では毎年15万人がタバコ(能動喫煙・受動喫煙)で亡くなっており、タバコを吸う人の寿命は吸わない人よりも、男性で8年、女性で10年短くなります。
 タバコを吸うと認知症のリスクが2倍になり、4年早く介護が必要となります。
 禁煙を始めると、次の日にはニコチンが身体から消え、3週間で息切れが減り、3カ月で心臓発作が減り、5年で肺がんの危険が半分になります。40代までに禁煙すると非喫煙者との寿命の差がなくなります。60~70代の方でも、禁煙で予想以上に健康が戻る方がたくさんおられます。何歳から始めても禁煙にはすばらしい効果があります。
 
■説明・根拠資料
茨城県の調査では、40~64歳男性の死亡リスクが下記のようになっている
多変量調整死亡危険度(茨城県民.2013年発表; *有意差あり)
http://www.hsc-i.jp/05_chousa/seimeiyogo_chousa.htm
ちなみに女性は下記のようであり、喫煙が最大の死亡リスクであることは同じ
日本:能動喫煙死年間亡数 厚労省H22データ
http://www.mhlw.go.jp/topics/tobacco/houkoku/dl/120329_1.pdf#search='%E5%96%AB%E7%85%99%E6%AD%BB%E4%BA%A1%E8%80%85%E6%95%B0'
6年前が12~13万人なので、現在は15万人前後となっている可能性大
日本:喫煙で認知症が2倍
日本:喫煙者は非喫煙者よりも4年早く介護が必要となる

日本:脳卒中と喫煙リスク

【タバコ白書p220】病型によって脳卒中リスクは異なる傾向もみられる。前述の併合データを用いて算出した脳出血,くも膜下出血,脳梗塞の非喫煙者に対する現在喫煙者の相対死亡リスクは,男性でそれぞれ1.27 (95%信頼区間 1.00-1.62),2.39 (95%信頼区間 1.53-3.73),1.15 (95%信頼区間 0.96-1.39),女性ではそれぞれ1.87 (95%信頼区間1.34-2.60),2.93 (95%信頼区間 2.15-3.98),1.33 (95%信頼区間 0.99-1.81)と,特にくも膜下出血との関連が強かった22)

2.他人のタバコの煙はどれくらい体に悪いの?

 大切なご家族と周囲の方の命と健康を守るためにタバコをやめませんか?
タバコを吸わない人が、タバコの煙を吸わされることを「受動喫煙」といいます。最近の調査では、3人に1人が職場で、2人に1人が飲食店で受動喫煙にさらされています。
 受動喫煙は多くの人々の命を奪っています。ここでクイズです。日本で、毎年何人が受動喫煙で死亡しているでしょうか? ①150人、②1500人、③1万5千人
 
 答え:③1万5千人。これは交通事故死の4倍近い数字です。死因は肺がん、心筋梗塞、脳卒中、乳幼児突然死症候群などです。
 受動喫煙は、大人の糖尿病、心臓病、肺結核の発病を増やします。家族にタバコを吸う人がいると、赤ちゃんとこどもの気管支炎、喘息、アレルギーも激増します。
 職場と飲食サービス施設を法律で完全禁煙にした33の国や都市では、その翌年から心臓病、脳卒中などで入院する人の数が一様に1割~4割減りました。受動喫煙の健康影響が実に大きいことを証明したデータといえます。
 タバコを吸わない人々の命と健康を守るために職場や飲食サービス施設をすべて完全禁煙にしましょう。「分煙」でも良いではないかと考える方もおられるでしょうが、喫煙区域からの煙の漏れを完全に防ぐことはできません。ごくわずかの受動喫煙でも、無視できない健康被害が起こります。
 あなたがタバコをやめると、大事なご家族、一緒に働く同僚、飲食店で働く方々の命と健康が守られます。
 
■説明・根拠資料

【出典】喫煙の健康影響に関する検討会報告書(案)平成28 年8 月喫煙の健康影響に関する検討会編
日本:受動喫煙死亡数 2016年
あってはならない死因の犠牲者数(原因別)受動喫煙死者数は古い数字
家庭の受動喫煙で死亡するリスク(疾患別)
家庭の受動喫煙で死亡するリスク(総死亡)
ごくわずかの受動喫煙でも無視できない健康被害がある:嗅覚の良い人がやっとタバコ臭を感知する受動喫煙レベルで10万人当りの生涯超過死亡数が100~600人である。
いっぽう、アスベスト対策では10万人当りの生涯死亡数が6.7人を越えると懲役1年の刑が科される。したがって、タバコの煙の漏れる分煙に問題ないと言うのなら、アスベスト対策のコンセプトを100倍緩めたことになり、法の整合性が全く取れない。
いっぽう、アスベスト対策では10万人当りの生涯死亡数が6.7人を越えると懲役1年の刑が科される。法律で国や都市全体の飲食サービス施設を完全禁煙にするだけで、国や都市全体の入院数が激減することが証明されている。逆に言うと、非喫煙者がこうむっている健康被害が莫大であるということ。

3.なぜ禁煙が難しいのか:ニコチン依存症

 これまで、喫煙が自分だけでなく、まわりのひとびとの健康も大きく損ねることを説明しました。タバコを吸う方のほとんどは、そのようなことをわかっておられると思います。そして喫煙者の7割の方はできれば禁煙したいと思っておられます。
 しかし、禁煙しようとしても、これがなかなか難しいということも多くの方々の実感でしょう。
 なぜタバコをやめることが難しいのでしょうか?それは、タバコに含まれるニコチンのせいです。ニコチンは、麻薬やアルコールと同じくらいやめることが難しい「ドラッグ」です。毎日タバコを吸うようになり、からだに悪いからやめようとしてもやめられなくなることをニコチン依存症とよびます(コラム参照)。
 
当てはまる項目が多いほどニコチン依存症の可能性が高くなります
□禁煙や節煙にチャレンジしたがイライラ、集中力低下、ゆううつなどのために失敗したことがある
□タバコが吸えないような仕事や付き合いを断る
□病気の時も吸ってしまう
□タバコのために自分の健康に問題が出ているとわかっていても吸ってしまう
□喫煙するとかえってイライラし、気持ちが落ち込むにもかかわらず禁煙できない
 
 
■説明・根拠資料

喫煙者の7割は禁煙したいと思っている
ニコチン依存症の可能性についての5項目は、松崎のオリジナルであり、禁煙治療の要件であるニコチン依存症診断基準ではありません

4.禁煙失敗の原因:ニコチンの離脱症状

 タバコをやめることが難しいのはニコチン依存症という病気になっているためであることを説明しました。
 ところで、タバコの値段が少し値上げされるとか、子どもやお孫さんからタバコをやめてほしいと一言言われただけで、あっさりと禁煙される方は少なくありません社会的動物である人間の行動は、社会のありかたに大きく影響されます。いくらニコチンが強力なドラッグであっても、世の中が変わると、禁煙が成功しやすくなります。タバコの値段を上げる、タバコを吸えない場所を増やす(受動喫煙防止法)、タバコの箱に喫煙による健康被害の画像を大きく印刷するなどの対策を進めた国では、多くの人々がタバコをやめています。子どもの喫煙を減らすために、店頭でタバコ製品の陳列をやめた国々もあります。これらの対策をもっとしっかり進めることが、禁煙したい方々のサポートになります。
 問題は、それにもかかわらず禁煙できない方がたくさんおられることです
 禁煙しようとしても、うまくいかない最大の原因は、ニコチンの離脱症状に負けるためです。禁煙を始めたその日から、イライラ、集中力低下、不安、頭痛、めまい、気分の落ち込みなどが始まり、1~2週間後にピークに達します  多くの方がこの体調不良に耐えかねて再びタバコを吸ってしまいます。この時期を乗り越えて1カ月たつと、離脱症状はほとんど出なくなり、禁煙を続けることができるのですが…。
 次に、離脱症状を乗り越えて、禁煙を成功させるコツを述べます。
 
■説明・根拠資料

タバコ税増税が喫煙率を下げる
画像による警告表示の効果

5.禁煙の準備と離脱症状を乗り越えるコツ

 さあ、禁煙にチャレンジしましょう。

【禁煙スタート前】
①禁煙を始める日を決める、②家族・友人・職場の同僚に禁煙実行を宣言し、禁煙のサポートを依頼する、③タバコ、ライター、灰皿を処分、④手や口さびしさをまぎらわすための飲食物やアイテムを準備。
 
【禁煙第一日目から】
①タバコが買える場所・吸いたくなる場所(パチンコ店など)・タバコを吸う友人に近づかない、②タバコを吸うタイミング(起床時・食後など)に別の行動(歯磨き・洗顔・ラジオ体操など)を行う。
 
【タバコが吸いたくてたまらなくなった時】
 じっと我慢せず、腹式呼吸・冷たい水を飲む・散歩・体操・運動・歯磨き・ガムや昆布をかむ・音楽を聴くなどいろいろなことをやりましょう。1分間経つと、ニコチンをよこせと騒いでいた脳細胞も平静に戻ります。
ニコチン離脱症状は永久には続きません。2週間から1カ月後にはほとんど出なくなります。

【それでもめげそうな時】
 メモしておいた禁煙のメリット(若返る・力仕事が楽にできる・健康で自立した人生・10年分のタバコ代で自動車が買える・気持ちが明るくなる・子供や孫が風邪をひかなくなる・火事の心配がなくなるなど)を読みあげましょう。離脱症状に負けそうになった時の強い味方になります。

【役に立つヒント】
 禁煙チャレンジ中は、①コーヒーやお酒をひかえる、②食べ過ぎない(肥満予防)、③過労でストレスをためない、④夜更かしをしないなどがお勧めです。心に余裕を持って過ごしましょう。

 

6.楽にタバコをやめる方法があります:禁煙外来

 禁煙は離脱症状とのたたかいですが、離脱症状をしっかり減らす働きのある貼り薬(ニコチンパッチ)と飲み薬(バレニクリン)の助けを借りながら、楽にタバコをやめる方法(禁煙治療)があります。禁煙治療を保険で受けられる禁煙外来は全国に1万6千か所以上あります(日本禁煙学会ホームページ参照)。今すぐ確実に禁煙したい方には、禁煙外来受診をお勧めします。
 禁煙外来では、ニコチン依存症と診断された方に、貼り薬(ニコチンパッチ)または飲み薬(バレニクリン)を処方し、2週間ごとに5回の診療を行います。治療終了時、8割近くが禁煙に成功し、1年後も5割近くが禁煙を続けています。これは自力で禁煙にチャレンジするよりも3~4倍高い成功率です。3割負担なら、5回の受診合計で1万3千円~2万円程度の自己負担で済みます。ただし、禁煙に失敗した場合、次回の保険診療は1年後と決められています。
 禁煙外来では、禁煙薬の処方だけでなく、医師、看護師、薬剤師などから、離脱症状の上手な乗り越え方、禁煙薬の副作用(貼り薬による湿疹、飲み薬による吐き気など)対策のアドバイスを受けることができ、さらに禁煙する気持ちがぐらついた時のサポートを受けることができます。
 保険による禁煙治療は、35才以上の方では、喫煙年数×1日喫煙本数が200以上であれば受けられます。35歳未満の方は200以下でも受けられますが、未成年の方は、禁煙薬による治療が適当かどうかを禁煙治療の専門医と相談されることをお勧めします。

■説明・根拠資料

禁煙外来実施医療機関をネットで検索する際、日本禁煙学会のHpが使いやすい
http://www.jstc.or.jp/modules/diagnosis/index.php?content_id=1
保険による禁煙治療の概略
未成年者の禁煙治療について:禁煙学会Hpより:未成年者の治療は本人の意志と家族の同意のもとで可能となっているが、松崎は、未成年者にニコチンパッチやバレニクリンを投与しても、中長期的にはほとんど禁煙が再発することが多いと考えるため、薬物治療は積極的には勧めません。このようなわけで「禁煙治療専門医とよく相談を」という表現にしました。
 
Q.平成28年4月の改定により、高校生などの未成年者への投与についてもニコチン依存症管理料の算定が可能と考えて良いか?

A.依存状態などを医学的に判断し、本人の禁煙の意志を確認するとともに、家族などと相談の上算定することとなる。
(出典:日本医師会作成平成28年度診療報酬改定Q&A(その1)4ページ(2016/3/5版)※厚生労働省確認済み)
注:以前からニコチン依存症管理料算定に未成年は除外などの年齢制限はなかったが、喫煙本数×年数の制限があったため、実質的に未成年者や若年喫煙者などの多くが適用外になっていた。

 

 

7.禁煙をすえながく続けるコツ

 禁煙外来で禁煙に成功しても、3分の1の方は、1年後までに喫煙が再発しています。その主なきっかけは、①一本だけなら大丈夫と吸ってしまう、②太るのが気になって吸ってしまう、③家族・仕事・人間関係の問題でパニックになる、の三つです。この三つの落とし穴をうまくのりこえられたなら禁煙が長続きします。
 
【たった一本だけで脳細胞が目を覚まします】
 ニコチン摂取をあきらめかけていた脳細胞は、たった一本の喫煙で目を覚まして、「もっとニコチンがほしい!」という信号を再びどんどん発信するようになります。「1本だけ」が禁煙失敗の最大の原因です。特に酒の席でのもらいタバコは厳禁です!
 
【禁煙で太っても大丈夫です
 タバコをやめると平均2~3キロ太ることが多いですが、健康には何の問題もありません。禁煙すると心臓と肺の働きが良くなります。禁煙をきっかけにして、こまめに身体を動かたり、軽いスポーツを始めましょう。メタボの予防とメンタルヘルスの改善、そして禁煙を続ける意欲を強めるのに役立ちます。

【突然大変なことが起きた時】
 脳細胞は忘れかけていたニコチンのことを思い出します。精神的、肉体的ショックは、過去の薬物依存症を再発させます。タバコの場合も同じです。大変なことが起きた時こそ、タバコに手を出さないように言い聞かせましょう。健康こそが、人生の諸問題を首尾よく解決する土台なのですから。
 

8.何度でもチャレンジすることが禁煙成功の一番大事なコツ

 禁煙の話を締めくくる前に、三つの話題に触れます。

①「電子タバコ」はタバコの葉をバッテリーで加熱してニコチンを吸引する商品です。紙巻タバコよりも害が少ないと宣伝されていますが、使用者と周囲の方への「安全性」はまったく証明されておらず、禁煙の役に立つというデータもありません。

②喫煙者の身体、住宅や車の内装にしみ込んだタバコのヤニは、少しずつ乳幼児や非喫煙者のからだに入り込みます。これを「サードハンドスモーキング」とよびます。受動喫煙と同じ健康被害をもたらすおそれがあります。禁煙とともに、住宅や車のサードハンドスモーキング対策も必要です。

③タバコは、日本に大きな経済的損失をもたらしています。年間のタバコ税収は約2兆円(税収の約4%)ですが、タバコによる経済的損失(医療費、早死による労働力損失など)は7兆円台です。経済面からみても、文句なく禁煙がお勧めです。
 
 この記事をお読みの方の中には、禁煙外来でしっかり治療を受けたのに、喫煙が再発してしまい、自分には禁煙する力がないと自信をなくしている方もおられるでしょう。でも、あきらめる必要はありません。禁煙できた人の多くは、実は何回も失敗した末に成功しているのです。禁煙は「お見合い」と同じです。お見合い回数に制限がないのと同じで、禁煙も、成功するまで何回もチャレンジして良いのです。失敗してもあきらめず、何度でも挑戦することが、禁煙を成功させる一番大事なコツです!
 

 

■説明・根拠資料

電子タバコに関するWHO報告書(2016 8)

http://www.jstc.or.jp/modules/information/index.php?content_id=74

サードハンドスモーキング:
http://yahoo.jp/box/alcSGd
スライド81枚目以降参照

タバコと経済

TOPへ戻る